アイデンティティブランディング

2代目に必要な
経営者アイデンティティ

コアワードで、後継者オリジナルの経営者像をつくる

2代目は、ダメなんかじゃない。
事業承継のカギは後継者のアイデンティティ

中小企業で会社を継いだ2代目社長。どことなく「2代目はダメだ」というステレオタイプ的なイメージがあると感じています。2代目は会社を潰すとか、無能だとか。

一方で、成功事例もあります。弊社のお客様でも2代目になってさらに事業を伸ばしておられる方も複数いらっしゃいます。もちろん、それも先代あってのことです。

ダメだと言われる2代目、成功する2代目。その違いは「経営者アイデンティティの形成」にあります。本記事ではうまくいく事業承継のために、後継者、2代目経営者にとって必要なアイデンティティについて解説していきます。


この記事を書いた人

大江祐介 クリエイティブディレクター/コーチ
大江 祐介

京都府出身のクリエイティブディレクター/コーチです。中小企業の方々からのご相談に対して、常になんとか解決したいという想いがあります。27年のウェブ制作経験とマーケティング・コーチング技術などを組み合わせ、深堀り技術で課題解決をお手伝いします。

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2代目経営者は本当にダメなのか?そうではなく…

2代目経営者だから全員失敗しているかというと、前述のとおりそうではありません。ついては、2代目はダメ、というイメージを持つのは危険だと言えますね。実際には2代目だから、ということではなく、従来からの会社のイメージが先行し、後継者その人を活かせていないために起きる現象です。

では、うまくいく後継者と、そうでない後継者では何が違うのでしょうか?その原因は様々ですが、1つ、根本的な問題があります。

根本は「経営者アイデンティティ」の問題

事業承継がうまくいかず、2代目はダメといった印象になる中心的な原因は、後継者の「経営者アイデンティティ」の問題です。別の見方をすると、能力や経験、考え方、ジェネレーションギャップなどは2の次です。(関係ないという意味ではありませんが)

先代には、経営者アイデンティティがあります。うまくいっていない後継者には、経営者アイデンティティがありません。人間性や人格形成の一種ですが、私は人格や人間性と捉えるよりも、アイデンティティの問題と考えるほうがいいと思っています。

それはなぜか…?人格や人間性というと、基本的には外部からの視点で見た「あるべき姿」というイメージが基準にあります。一方、アイデンティティというのは「その人の内面」からくるものです。人は内発的な動機がなければ変わらない。だから「その人の内面にあるアイデンティティ」に視点を移したほうがいいということになります。

経営者アイデンティティとは「自他共に認める社長像」

アイデンティティとは

アイデンティティには様々な定義がありますが、弊社では「自他共に認める自分像」としています。よって経営者アイデンティティは「自他共に認める社長像」となります。

会社を潰さず、今日まで経営されてきた先代社長なら、これは必ずあります。自分の経営スタイル、大切にしていること、価値観、やり方なども含め、総合的なイメージがあるはずです。そしてそれを経営理念や社是社訓に落とし込んでいる会社も多い。社員にも確実に「社長はこういう人」という総合イメージがあるはずです。

後継者には経営者である自分というイメージがない

では後継者はどうでしょうか。…すべてゼロからスタートです。ところが、人・モノ・カネ・情報といった経営に必要な要素は「最初から、ほとんどある」。これが問題の始まりです。

アイデンティティは無いのに、経営資源は有る。後継者はパニックに陥ります。経営資源をどう操ればいいのか、その体系が、体に全く染み付いていない。この状態で、様々なことを教わったとしても、右から左に流れてしまうでしょう。「自分の役割・立ち位置」といった内発的な軸がないと、概念が整理できないからです。

まず最初に重要なのは社長としての能力、経営者としてのの器、仕事の経験といった「会社目線」の問題ではなく…後継者個人の内面にある「自分はこういう人間なんだ」というアイデンティティ(≒自己イメージ)だということです。

要するに経営者としての自覚ってこと?そうなんですが…

×先代から言う ◯後継者から話す

はい、その通りなのですが…多くの場合、視点が逆なんです。

事業承継すると、周囲は2代目だとか、後継者だとか、若手社長だとか、そういう見方をしますよね。これらはすべて先代や会社から見た視点、社会から見た視点です。後継者に早く自覚を持たせるために、先代から言って聞かせる場合もあるでしょう。

ですが実際には、アイデンティティというものはすべて「自分」からスタートします。後継者になったその人から見た仕事や社員、顧客、取引業者。会社目線が理解できていない以上、これらの捉え方はすべて先代とは視点が逆で、解釈も異なります。

視点が逆である以上、認識のズレが起こるほうが自然です。会社目線でその人を測り、あれこれと言われ続けるのは、後継者にとって不幸なことでもあります。このため、先代が後継者の想いを引き出す、あるいは後継者から話す、という視点が大事になります。

後継者が「経営者アイデンティティ」を
形成するための7ステップ

以下では、後継者さんが自分が継いだ会社においてアイデンティティを形成していくためのステップをご紹介します。

準備と前提:何らかの形で先代と後継者が想いを共有すること

大前提として、このことは後継者だけの問題で終わらせることはできません。先代と何らかの形で共有していただき、先代さんとしては後継者さんの感じていることを受け入れる必要があります。

まず気持ちを分かり合う。このプロセス無しには解決は難しいといえます。もし、親子関係でなかなか話しにくいなどの事情がある場合は、他の役員さんや第3者に間に入ってもらうことも検討されると良いと思います。

01後継者の現状の意識を振り返ってみる

まず最初に、そもそもの観点に立ち返ります。現状、後継者さんに経営者として何らかの課題があるとすれば、深い意識の部分に事業承継する(した)ことに対する迷い、疑いの心、重圧、逃避、去勢といった情動がある可能性が高いです。

もしあなたが実際に後継者さんであれば、以下の質問について、ゆっくりリラックスできる環境で考えてみてください。もしあなたが先代経営者さんや、そのご家族など後継者さんを気遣う立場であれば、後継者さんと改めて時間をとり、以下のことを穏やかな気持ちで聞いてみていただきたいと思います。

  • 事業承継に対して、本当はどう感じているのか?

本当のところ、プレッシャーに感じているかもしれないし、やり方が分からないかもしれない。本当は、継ぎたいと思っていなかったかもしれない。基本的にどんな答えでも、正直な気持ちとして受け止めて欲しいのです。正直な気持ちを受け入れると、後継者さんは幾分か楽になります。

例えばですが「息子だから当然やん」といった、外部の影響を理由にした回答の場合は、もう少し深い「後継者自身の本当の気持ち」にフォーカスしましょう。親の都合、会社の都合といった観点ではなく、一人の人間である後継者自身がどう思っているのかが大切です。

02後継者の不満・不安を洗い出し、共有する

  • 不満なこと
  • 不安なこと
  • 懐疑的なこと
  • 嫌なこと
  • 自信がないこと
  • 我慢できないこと
  • など

次に後継者さんが本音として、自分の現状にどのような不満を感じているのか。どのような不安を抱いているのかを洗い出します。そしてそれを、先代との間で共有します。

後継者さんとしては、遠慮は無意味です。会社への不満、会社での不安があるなら、そのまま伝えましょう。単純に自分がやれる自信がない、どうしたらいいか分からない、という場合も、そのまま伝えてください。

先代さんとしては、どんなマイナス要素が出てきても、すべて受け止めて欲しいんです。受け止められるかどうか。これでその後の成否が180度変わります。仮に違和感があってもひとまず受け止めてください。

03なぜ事業承継をしたのかを振り返ってみる

次に、事業承継した動機にフォーカスしてみましょう。親が社長でその息子(娘)だったから。小さい頃からなんとなく「後継ぎ」という暗黙の了解があったから。こういったケースは多いと思いますが、ここでも外部の影響ではなく、後継者個人が、なぜ継ぐことにしたのかを考えます。

最初の質問で、実のところ、不本意な事業承継だったと思う方もいらっしゃるかもしれません。それでも、継いだ(継ぐ)以上、何か理由はあるはずで、もし100%不本意であれば、継ぐ話が進んでいないはずです。

こういった内容を考える際には、引き算型質問が有効です。以下に当てはめてみてください。

  • もしこの会社に◯◯が無かったとすれば、継がなかった。
  • もし先代に◯◯が無かったとすれば、継がなかった。
  • もし自分の中に◯◯が無かったとすれば、継がなかった。

ここで出てくるキーワードは、事業承継の「動機」の根本につながるワードです。動機に立ち返ることで本来の思いに気づき、行動エネルギーにつながります。

04どうであれば、この会社を面白いと思うか?

次に、後継者その人から見た目線での、理想的な会社のあり方に視点を移します。ふつう、すでにある会社のことを後継者に理解させることが多いと思いますが、逆なんです。後継者目線から見ることが重要です。

これは人間の脳の仕組み上、本人が、個人的に重要性を感じていないと「すべて右から左に流れる」からです。いかに会社の大切な考え方を伝えようとも、いかに経営者としての姿勢を伝えようとも、本人に自覚が無いことは、一切インプットできないんです。残念ながら。

後継者目線で会社のことを考えるには、以下の引き算型質問で考えてみます。

  • 自分が理想とする会社のイメージがあるとして、そこから◯◯が無くなったら、全く面白くない。

もしあなたが実際に後継者さんなら、上記の質問を自問してみてください。もし先代や第3者なら、後継者さんとこの話を共有し、一緒に考えてあげて欲しいんです。

いくつか出てきたキーワードの中に、心にザクっとくる感覚の言葉があるかもしれません。頭で考えた言葉ではなく、みぞおちやハラに落ちる感覚です。それがコアワードになりえます。このコアワードは、経営理念やビジョン・ミッションといったその経営の根幹になる哲学に通ずる言葉です。

それはつまり、先代がどうであるかとは関係ない、後継者さんだけの経営者アイデンティティのスタート地点になります。

誰かに質問してもらう。話しながらまとめる。

とはいえ、上記の◯◯に入るコアワードが、なかなかすんなり出てこないことも多いと思います。

これを出すための1つ方法として「誰かに質問してもらう」ということをおすすめします。自信が持てないキーワードであってもまずアウトプットして、イメージを相手に説明してください。話しているうちに、違和感がある場合はだんだん話が変わっていきますし、的を得ている場合は確信に変わっていきます。

05コアワードと会社との接点を考えてみる

一旦、後継者の内面にある「理想の会社イメージ」を考えました。ここで少し現実に目を向けてみます。

先ほど出したコアワードと、現状の会社との間で、何か接点は考えられないでしょうか?自分のイメージにある会社像と、実際の会社像を見比べ、観察していきます。もし現状の会社が自分の理想と違っていたとしても、それは100%そうではなく、何か接点が考えられると思います。

外部から後継者として「見られている」感覚から脱出し、後継者自身が自発的に「会社を見る」感覚になると、会社の見え方は変わります。それまでは外発的動機だった状態から、内発的動機に変わることで、インプットできる情報が変わる。実は人間の脳はそのようにできています。

06先代が、後継者のコアワードを受け止め、イメージを共有する

コアワードは多くの場合単語か、短い言葉です。このため具体的にはどういうイメージなのかを先代に話す必要があります。それを先代さんは、一生懸命聞いて欲しいのです。

先代さんは、分からないところは追加で質問してください。そして先代さんなりに解釈した結果を「それは◯◯という意味で合っているか?」と確認します。後継者さんはニュアンスが違うなら追加説明、合っているならYes。こうして、後継者のコアワードに対する認識を共通化します。

ここまでで、すでに先代と後継者の間に一定の「理解と共感」が生まれています。これだけでも後継者さんにとっては効果があります。2代目、後継者、◯◯さんの息子(娘)、などのレッテルから離れ、純粋に一人の人間としての「その人」にフォーカスすることは、人間にとって幸福感につながります。

先代のコアワードも洗い出してみる

逆に先代のコアワードを洗い出してみるのもいいと思います。質問法としては「もしウチの会社から◯◯が無くなるとすれば、もはや会社をやる意味はない。」と考えるといいでしょう。

そして、先代のコアワードも後継者と共有します。想いが詰まっているはずです。

07後継者がコアワードを軸に、自分の経営者像をつくる。

経営者アイデンティティ形成という意味では最後のステップです。後継者は自分が考えたコアワードをもとに、この会社での自分という経営者像をつくっていきます。

その際、すでに前述のステップで見てきたように、先代のコアワード、そして先代と共有できるポイントは非常に重要です。先代と自分との違いも見えたことでしょう。違いは、違っていていいのです。でも、先代との間の共感ポイントは、その後のご自身の経営の中でも無くさないでいただきたいのです。

それを前提に、以下の3つの柱について考えてみてください。

  • 仕事や経営において、自分は何が好きか。
  • 仕事や経営において、自分は何ができるか。
  • この会社は、社会にどう役立っているか。

上記の「好きなこと・できること・役立つこと」この3つを外さなければ、経営は面白くなります。

少し考えて、すぐに見えてくることでは無いと思います。むしろ、経営者である限り問い続けてもらいたいことでもあります。その「問い」を持ち続ける中で自然と、後継者さんであるあなたらしいアイデンティティが形成されていくはずです。

共感ポイントがあって初めて、
事業が承継される

御社は形としての事業承継はもう終わっているかもしれませんし、まだかもしれませんが、本質的な事業承継ができるのは「共感ポイントが生まれたとき」です。

それは後継者さんにとって、会社の過去に対するリスペクトが生まれたときでもあり、先代さんにとっては過去の自分が築き上げてきた会社というものに対する執着を手放し、本当の意味で後継者にバトンを渡す瞬間でもあります。

こうして後継者さんの中にオリジナルな経営者アイデンティティが形成されながらも、これまでの会社の「らしさ」も継承されていく歴史が始まります。バトンを渡すと、会社の「形」は変わっていきますが、コアを承継すれば、本質は変わりません。

ぜひ参考にしていただき、本質的な事業承継ができることを心よりお祈りしております。

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