人口減少に伴う採用難を受けて、中小企業においても自社専用の「採用サイト」を制作する企業が増えています。本記事では、これまで弊社が企業の採用サイト(ホームページ)で成果を上げてきた経験から「ぜひ知っておいていただきたいな」と感じたポイントをまとめてみました。
まず前提となる知識として、人材不足や求人の課題の話題になったときによく出る、誤解をはらんだ認識をご紹介します。
実はこれ、ちょっと誤解なんです。正確には「興味を持ったら文章は読まれる」ようになります。逆にいうと、興味を持ってもらえない場合は文章は読まれないため、「最近の人は文章は読まない」という印象になりやすいのかもしれません。
興味を持ってもらうには、ビジュアル(写真やイラストなど)と短いキャッチコピーや見出しで「ぱっと見て分かる」ことが大切です。だらだらとした文章よりは端的なほうが良いですが、興味を持ってくれた求職者に最後の後押しをするためには、丁寧な文章にするといいと思います。
これは実際には、その傾向はありますので、完全に誤解というわけではないのですが…。
でも、ワークライフバランスを「仕事 vs 自分の生活」という相反する概念として捉えてしまうのはあまりおすすめできません。昨今の求職者は、「自分の好きなことをする時間はしっかり取りたい」という傾向はあります。でもそれと同時に仕事面で「やりたいことができる。誰かに貢献できている。」と感じられることも重要なんです。最近の若者は休みの事ばかり考える、と考捉えるより「ウチの仕事の魅力はなんだろう?」と考えていただくほうがいいでしょう。
もちろん人口は減少しているのですが…でも多くの人はどこかの会社に就職していますので、求人を出しても応募が無いとすれば、それは残念ながら「選ばれていない」ということになります。
特にハローワークは、全然応募がない、応募があってもろくな人材が来ない、という否定的な声をよくお聞きします。ですが実際は、中小企業においてハローワークは重要な求人媒体の1つです。自社採用サイトと組み合わせ、自社の価値を伝えることでハローワークからの重要な人材を採用できた例もいくつもあります。
以下では、中小企業が自社サイトに求人用のページを設ける、または専用の求人サイトを制作する際に掲載するべき内容について解説します。
そもそも御社は何を大切にしながら経営しているのか。御社は何のために存在しているのか。何のために仕事をしているのか。大切にしていること、外せないことをメッセージとして掲載すること、強く、強くおすすめしています。ビジョン(目指すことや理想の未来)、ミッション(自社の使命や社会的な役割)と表現されることもあります。現代の求職者は、「その仕事をする意味合い」を重視しています。
御社の価値観、メッセージに共鳴した人であれば「御社で働いてみたい」という動機が強くなり、採用後の定着や活躍度にも影響するでしょう。誰でもいいわけではなく、お互いに「合う」人同士が一緒に働けることが一番いいですよね。
上記の例は不動産のトータル事業を行う企業です。単に建物をつくる、販売・賃貸する、管理するといった枠組みを超え、「まちの再生にクリエイティブに関わる」という同社の意思とビジョンを示しています。
そもそも御社の仕事は、社会の中でどのように役に立っていて、どういう意味を持っているのか。御社の仕事(業種)が無くなったら、どうなるのかなどを掲載します。
企業は必要とされていなければ、つぶれているはずなんです。よって存続している会社であれば、必ず何か必要とされています。ただ、中小企業おいてそのような視点で掘り下げている例は少ないようです。
他社がやっていないとすれば、それはチャンスとも言えます。これを機会に、一度掘り下げてみてはどうでしょうか?方法としては「ウチが無くなったら、誰がどう困るか。それはなぜか」を考えてみることです。少し広げて「うちの業界が無くなったら、誰がどう困るか。それはなぜか」でもかまいません。具体性を出すために、複数の顧客をイメージしながら、それぞれの顧客ごとにこの自問をしてみるといいでしょう。
御社で働くと、そもそもどんな仕事をすることになるのか。「素人でもよくイメージできるようにする」ことをベースに考え、整理して伝えます。
「自分たちの仕事が当たり前になりすぎている」と、仕事内容の伝え方は非常に抽象的で曖昧になりがちです。求人票に書く内容も、多くの場合抽象的です。例えば・・・
上記が悪いわけではないのですが…しかしこれだけでは、似たような業種なら「どの会社も同じに見える」という事態に陥ります。つまり、求職者としては自分の興味に合った会社を選びようがないことになります。
プロにとっては1つの仕事でも、細分化するといくつもの作業の集合体であることが分かります。できるだけ仕事内容を分解し、イメージできるようにすることが重要です。
仕事内容に関連して、御社で働くとどんなスキルアップができるのか、その流れ等について明記することも有効です。具体的には資格取得の制度、社内研修、外部セミナーへの参加、OJT制度、昇進の仕組み、メンター制度の有無、キャリアマップ(成長を視覚化)、ジョブローテーションなどです。
その仕事、作業を行う中で、面白さを感じられるポイントや魅力、どういう点にやり甲斐を感じるかを明記していきます。これは先輩の声として、社員さんのインタビュー形式で掲載していくのも1つの方法です。
ベテランになると日々の仕事に対する感覚が麻痺してしまうことも多々あるようです。よって、やり甲斐も空気のようになってしまい、わざわざ口に出さないことも多いでしょう。逆に、例えば入社3年目などの社員さんだと、今実感しているやり甲斐などを言葉にしやすいかもしれません。ですが「仕事のやり甲斐を教えて」と聞いても、月並みな答えしか出てこないことが多く…。少し工夫が必要です。
そこで、弊社が推奨している「引き算型質問」をしてみてください。
ここで出てくる答えは「仕事上、無くしたくない事柄」のため、やり甲斐や仕事の面白さ、魅力に関係している可能性が高いと言えます。「やり甲斐は?」と漠然と聞くと一般的な答えになりがちですが、この質問ならリアリティのある答えを引き出しやすくなります。
上記の例の株式会社ヤマモト様でも、仕事上の面白いポイントをヒアリングしました。ところがある社員さんが「ものづくりなので、何やってても面白いんですけど」とおっしゃられました。ものづくり業界の、そもそもの面白さを感じている会社であることから、上記のようなストレートなキャッチコピーを配置するに至りました。
社員の働きやすい環境のために取り組んでいること、ハード面、ソフト面、それぞれを挙げ、明記していきます。その職場が快適で過ごしやすくするための取り組み、仕事の妨げにならないよう配慮していることなど。
デスクや椅子のよさ、空調などの温度管理、休憩スペースの確保、女性専用トイレや更衣室、ミネラルウォーターなどの設置、そもそも仕事上で使用する道具類が良いものが揃っている、など、様々な内容が考えられます。
また精神面として、コミュニケーションがオープンにできるように取り組んでいること、社内での上司と部下との間のフィードバックに関する工夫なども考えられます。
多くの会社では、お客様をお迎えするスペースなどは優先的にきれいしても、事務所などは後回し、ということが少なくありません。ですが働く場所の改善は、社員さんのモチベーションに効果を発揮することが多いと言えます。
業種ににもよりますが、IT化、DX化が進んでいる会社は若年層の求職者に選ばれやすくなる場合があります。例えば業務のクラウド化、顧客管理システム(CRM)の導入、ペーパーレス化の推進状況などが代表例です。
「社員が辞める理由」で常に上位に来る、人間関係。よって、社内の人間関係や社風を伝えるコンテンツは非常に重要です。もし、社内の人間関係に課題があるとすれば、それはかなり優先度を上げて解決することを強くおすすめしています。逆に、社員を大切にし、現場の社員同士、上司と部下がオープンに、壁のないコミュニケーションがとれている会社なら、それを自信をもって発信するだけで優位性があるでしょう。
1つの視点として「社内の人間関係がいいことを証明できる、具体的なエピソード」を探してみてください。
一例として弊社のお客様である株式会社ヤマモト様(板金塗装・機械製造業)では、採用情報ページに「みんな仲良し、みたいな雰囲気ではありません。なのに、仕事終わりのちょっとした集まりにみんな寄ってきたりと、変なところで連帯感があります。」と明記しました。実際の話です。このようにリアリティの感じられるエピソードやネタで、人間関係が垣間見えることが重要です。
同時に、やはり写真や動画が重要です。採用サイトだけでなく、SNSなどにも「社員の顔」が出ていて、いい表情や笑顔が見えると親近感が湧き、雰囲気の良さが伝わります。一方、人間関係が悪い会社では、社員が顔出しを拒否する傾向があります。ですので、やはり本質的には社内の人間関係改善に取り組むことが重要になります。こういった企業では、ぜひ社員共育としてカウンセリング・コーチングの概念を取り入れてみてください。
給与が高いほうが求人しやすいことは言うまでもないですが、別の視点としてここでは、給与の額以外の面を考えてみます。
社員の不満が出やすく、辞める原因になりやすい点として「評価、待遇に納得がいかない」という点があります。上司や役員が思う認識と、その社員が思う認識にズレが生じ、もっといい待遇でないとおかしい、と感じているケースです。
これは、評価の仕方が曖昧で、役員や上司の感覚に頼って評価してしまう場合に起きやすい問題です。
社員はどういう基準で昇給され、どういう考え方で昇進するのか。賞与がアップする基準、考え方は何なのか。これを感覚的にせず、明確に定義することで、フェアな環境が生まれます。
逆に評価制度がしっかりしている、昇給や昇進、賞与の査定の基準が明確になっている企業は、これを自信をもって発信すると、とてもいいコンテンツになりますね。
働き方改革がどうという意味ではなく、そもそも現代の働き手は、柔軟な働き方を求める人が増えています。フレックスタイム、リモートワーク、時短勤務、副業兼業の許可など。こういった考え方を全員に導入することが難しい企業もたくさんあるでしょう。まずは部分的にでもいいので柔軟な働き方を取り入れ、実例として発信するといいと思います。
近年、非常に重要視されるようになってきた福利厚生。多岐にわたりますので、例を表形式にしてみました。
法定福利 | 健康保険、厚生年金、雇用保険、労災保険、介護保険 |
---|---|
休暇 | 週休2日制、年間休日数、有給休暇、リフレッシュ休暇、産休、育休、慶弔休暇など |
健康 | 健康診断、メンタルヘルスケア、人間ドックなど |
手当 | 通勤手当、住宅手当、食事手当、退職金、財形貯蓄制度など |
投資支援 | つみたてNISA奨励金など |
施設利用 | 保養所、宿泊施設、レジャー施設など |
家族 | 家族手当、育児支援など |
教育 | 研修制度、資格取得支援、自己啓発支援、技術向上支援など |
取り組んでいることは、すべて採用サイトに明記するのをおすすめします。網羅した上で、中でも特徴的な取り組みについては、特集的に取り扱い、詳しいコンテンツを掲載することで、より御社の職場としての価値が高まります。逆にいうと、全般的にバランスよく福利厚生を考えながらも「力を入れる福利厚生」を決め、取り組むことで職場の魅力化につながります。
弊社のお客様の株式会社シオノ鋳工様(鋳造業)では、特徴的な福利厚生として「手作り給食」があります。事務所棟の中に飲食店並みの厨房を持ち、専任の社員さんが毎日手作りの給食を出され、やがてそれが発展してカフェ経営にもつながりました。温かい昼食がとれることは社員さんにとっても非常に魅力で、同社の職場としてのブランディングにつながっています。
採用に向けての応募方法や選考の流れを説明し、求職者に対する不透明感を払拭しておきます。書類選考、面接、試験など、様々な内容が考えられますが、中小企業においてはシンプルなフローとなるケースも多いでしょう。それでも明記はしておくほうが安心感を与えられます。
特に、面接の雰囲気などを伝えておくと、不安が払拭しやすくなります。一人の求職者に対して複数の役員が同時に面接するのか、カジュアル面談なのか…で求職者の印象はかなり変わります。単に流れだけを掲載するのではなく、内容がイメージしやすいコンテンツにするとより良いでしょう。
例えば「会社見学」や「工場見学」など、求職者にとってできるだけハードルが低いコンテンツを用意し、「応募の前に、まず体験してもらう」ことを狙います。
多くの求職者にとって、どの会社を選ぶかは人生において大きなな選択です。となると、あまりよく知らない会社にいきなり求人応募するのはハードルが高いと言えます。このため、まずは応募の前に、お互いを知る機会を設けるのが得策です。この、求職者との接点のことをタッチポイントと呼びます。
会社見学や工場見学などは、比較的どの事業所でもやりやすいタッチポイントと言えます。飲食店なら求職者向けの試食会も考えられるかもしれません。できるだけ気軽に参加できそうなタッチポイントを企画し、まずはその低いハードルを超えてもらうことを考えることで、人材獲得への道が開きやすくなるでしょう。
前述までで、採用サイトに何を掲載するべきかを見てきました。以下ではその情報をより魅力的にする「見せ方」について解説します。
中小企業のホームページは、求人サイトに限らず、ビジュアルが小さい、少ないサイトが比較的多いのですが…こと採用サイトにおいては特に、ビジュアルの大きさ・多さが重要です。
参考までに「ikesai.comの採用サイト一覧」から、各社の採用サイトをチェックしてみてください。ほとんどのサイトで、ビジュアルはかなり大きく扱われていると思います。もちろん、これらのサイトをそのまま真似るのは難しいですが、参考にはなるはずです。
ほぼすべての求職者は文章よりもビジュアルを先に見て、感じることから始めます。前述のとおり文章は重要ですが、「つかみはビジュアル」です。
「映え」…とまでいかなくとも、ほとんどの中小企業でも、ビジュアルのかっこよさ、素敵さは、求人の応募率を左右します。同じ仕事風景でも、写真を撮るシチュエーションや角度、カメラの設定によって大きく変わります。
社内でセンスの良い人が撮影するのでもいいでしょう。しかしできるだけ写真・映像にかけるコストはケチらず、カメラマンへの依頼も検討されるといいと思います。よいカメラマンに依頼すれば、見慣れた職場風景が新鮮に思えるほどのかっこよさで表現できるはずです。
ただし、ここで依頼する写真はアートではありません。「美しい写真」が目的ではなく、「この仕事の魅力を表現する」という意図をカメラマンに伝えてください。
採用サイトに限らずですが、中小企業のホームページ制作では、著作権フリー画像を使用して構成されるサイトが見受けられます…全く使ってはいけないという意味ではありませんが、重要なポイントでフリー素材を使ってしまうと、どうしても「嘘くさい印象」になりがちです。もしフリー素材を使う場合でも画像を吟味して、自然に見えることを意識する必要があります。
中でも以下のような、「説明的な画像」は避けるようにしてください。
上記のような説明的な画像は、昨今多い「お役立ち情報を掲載した記事ページ」に使う画像としては問題ありません。しかし、企業の採用サイト、コーポレートサイトでの使用は、その会社の印象に関わりますので、使用を避けたほうがいいでしょう。
特に採用情報ページのファーストビューに短く印象的なキャッチコピーを配置するのは効果的です。ファーストビューとはアクセスした瞬間にスクロールせずに見える範囲のことです。多くの採用サイトで見られる手法ですが、やはり直感的に伝わりやすいという意味で、有効な手段と言えるでしょう。
一方でキャッチコピーは抽象的なイメージの言葉にしがちです。中小企業においては、どの会社でも言えるようなふんわりとした言葉は避けたほうがいいでしょう。理由は単純で「よく分からないから」です。例えば以下のような系統のコピーはよく見られますが、より具体的に、本質を突いたキャッチコピーが重要です。
上記は前向きな印象で、イメージが良いと思いがちですが、多くの求職者は「よく分からない会社は選ばない」と言えます。大手企業のように、そもそものブランディングが進んでいる企業なら別として、中小企業のように「ほとんどの人が知らない会社」では、御社がどういう会社なのかをしっかり伝える必要があります。御社の仕事や価値観に欠かせない言葉をキャッチコピーに反映させましょう。
一見つかみにくい会社の全体像を、数字で見せることによって直感的に伝えるための手法です。こちらも求人サイトでよく使われる手法の1つで、端的に情報を伝えるために有効なテクニックです。
数字で掲載する項目の例としては、従業員数、平均年齢、男女比、平均勤続年数、年間休日数、平均残業時間、有給取得率、中途採用の割合、3年以内の離職率、資格保有者数、産休・育休復帰率、売上高、売上成長率などが考えられます。
もはや採用サイトとしては当然のこととも言えるかもしれませんが、顔が見えることは非常に重要です。人間がふと目をやってしまうビジュアルの代表が「人物の顔」とも言われており、商品広告などで芸能人が使われるのはこのためです。顔が載っているだけで、意味があります。かつ、そこに写っている人がいきいきとした表情、笑顔、真剣な表情であれば、よりよい印象を与えることになります。
一方、中小企業においては社員の顔出しを嫌がる会社も少なくありません。辞めたあとどうするか?という議論にも発展しやすくなります。しかし、消極的になるほど採用はしにくくなり、より人材難に陥ります。
顔出しをすることに抵抗感が無い人に丁寧にお願いし、同意書を交わすなどの配慮をした上で掲載できることが理想的です。
中小企業の自社採用サイトにおいて、どのように発信すればいいか、ぜひ知っていただきたいと思う内容をお伝えしました。
求職者は、その会社に興味を持つほどに、深く知りたくなります。それも、企業に連絡をとる前に知りたいものです。そういった心理に、採用サイトというものは非常にフィットします。きっかけはSNSや求人広告かもしれません。しかし、深く知りたくなったときには、採用サイトの情報が貴重な情報源となります。そのためにも、情報はバランスよく。前述の内容をできるだけもれなく押さえることをおすすめいたします。
ぜひ参考にしていただき、御社の求人を成功に導いていただければと思います。