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共感を得るのは「ニュースタンダード」

私が好きな漫画の1つに、「まどろみバーメイド」という作品があります。バーメイドとは、女性のバーテンダーさんのことを指す言葉とのことです。

もともとカクテルが好きなのと、絵がきれいで、キャッチーさもある読みやすい漫画ですが、随所に哲学的なメッセージがあって、そこが好きですね。

2021年末に発売された第10巻のエピソードで、私がここ数年感じていたことが見事に表現されていた内容がありました。

全く異なる価値観の対決

とあるきっかけから、
銀座の2つのバーが、「バーマン・プラチナム」というバーテンダー対決番組で対決することになりました。

対決するのは、
古くから歴史を紡いできた正統派バー「エリシオン」と、
斬新な創造性と実力で急成長をとげた「銀座メテオ」。

その決勝戦。
エリシオンのセカンドチーフ、気が強いが意外と人情にもろい「伊吹」と、メテオのオーナー、自分の実力に絶対の自信を持ち、上から目線な「砕明寺」の、因縁の対決です。

審査員は、銀座最強のバーテンダーとうたわれた 宗方。

その中で、先攻のメテオ 砕明寺は、かつて宗方氏が考案し、レシピは全く非公開だった伝説のカクテル「ブレイズ」を再現。
なかなか手に入らない希少な素材が使われていたのですが、それを世界中の素材から執念で探り当て、伝説のカクテルを復活させました。
メテオ 砕明寺は、そのプライドの高さから、常に自分を高め、ストイックに技術を磨き、「誰も真似できないカクテル」を追求し続けていたのです。

よくある素材を、ちょっと加えた、だけ

これに対し、伊吹が提案したカクテルは、、、古典中の古典、「ど のつくほどのスタンダード」とされる、「バンブー」というカクテルでした。
審査員の宗方は、あらゆるスタンダードカクテルを知り尽くした自分にとって、バンブーというカクテルなど、到底「ブレイズ」にはかなわない、と思いました。

しかし、宗方はそのバンブーを口にした瞬間、「紛れもないバンブーだが、こんなものを私は飲んだことがない」と言ったのです。

ちなみに、その秘密は、本来バンブーのレシピにない、「オレンジキュラソー」という、比較的、よく売ってあるポピュラーな材料を、ほんの少しだけ加えたというものでした。

ほんの少しの改良で、新しい価値へ

ここに、伊吹の考え方があります。
エリシオン 伊吹は、斬新なアレンジカクテルは、一般の人は真似できない。だから、誰でも作れる、なじみのある材料を使うことで、世界へと広くカクテルというものを伝播させたい、そう考えたのでした。

それなら、もし社会が分断されるようなことがあって、仮に遠方のバーに行けなくなっても、家のベランダでバーを楽しむことができる。(これは、コロナの状況のことを指してるのだと思いますが)

しかもそれだけでなく、スタンダードレシピでありながら、ほんの少しの改良を加えることで、新しい価値へと昇華させる。
「最初から他の誰かが真似できることを前提としたカクテルでありながら、斬新さを感じられるカクテル。ニュースタンダードカクテル。」

研究の成果を、シェアする勇気

このあと、エリシオンは、すべてのカクテルのレシピを「一般公開する」と明言します。ここ最近の時代の、「シェアリング文化」「オープン文化」そのものです。

高みを目指し、誰にも真似できないカクテルを目指すメテオ 砕明寺と、誰かが真似できることを前提にレシピを公開しながらも、バーテンダーとしては研鑽を積んだ技術でおもてなしをする、というエリシオン 伊吹。

極めて対象的な考え方、、どちらが勝ったかは、、、とりあえずご想像におまかせするとして、(だいたい分かると思いますが)とにかく、私は伊吹の考え方にとても共感したのでした。

ユーザーの意識の、ほんの少し上をいく

ビジネスの現場において、ブランドというものは、他社が真似できない要素が詰まっていることが多いです。

差別化。
もちろん、それも大切なことだと思います。

一方で、突出した技術や斬新さというのは、時に人を突き放すような冷たさを持つことがあります。
それはスゴイことである一方で、幸福感のある共感は得にくいことも多いようです。多くの人が「分かる」「いいね」って思えるものでありながら、ほんの少しの新しい価値を加えることで、また世界が広がる。

そんな、温故知新的な、商品・サービスというのが私は好きです。
伊吹のカクテルは、まさにそんなカクテルでした。

新しすぎるものは、理解されにくい。
古典すぎるものは、飽きられる。

だから、スタンダードを大切にしながらも、ユーザーの意識の、ほんの少しだけ上を行く。ニュースタンダード。

今後も大切にしたい哲学だと思っています。

(大江 祐介)

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